今回は、なぜ、不正が起こるのか、その不正の原因や、不正を行う社員の特徴について考えてみたいと思います。

1.不正の原因
なぜ、社員による資金の使い込みが起きるのでしょうか?

不正が起こるメカニズムについては、米国の犯罪学者であるD.R.クレッシーが実際の犯罪者を調査して導き出した「不正のトライアングル」理論が、広く知られています。

「不正のトライアングル」理論では、不正行為は、(1)動機・プレッシャー、(2)機会、(3)姿勢・正当化という3つの不正リスク(「不正リスクの3要素」)がすべてそろった時に発生すると考えられています。

(1)動機・プレッシャー

動機・プレッシャーとは、不正を実際に行う際の心理的なきっかけのことです。

処遇への不満、理不尽な叱責などの個人的な理由や、社長に意見を具申できない社内環境、利益目標必達の強い指示に対してのプレッシャー、過重なノルマ、業績の悪化、株主からの圧力などの組織的な理由が挙げられます。

(2)機会

機会とは、不正を行おうとすればいつでもできるような職場環境が存在する状態のことです。

重要な事務を一人の担当者に任せている、取締役の他部門に対する監視が不十分など、必要な相互けん制、承認が行われていないといった管理の不備が主な原因として挙げられます。

特に、優秀なスター社員がいるような会社では、その社員を信頼して任せきりになってしまい、上司による証憑(しょうひょう)類のチェックが形骸化し、中身も確認せずに、はんこを押すだけという状況になってしまっていることがあります。

(3)姿勢・正当化

姿勢・正当化とは、不正を思いとどまらせるような倫理観やコンプライアンスの意識が欠如していることを言います。不正を行うことが可能な環境下にあっても、不正を働かない固い意志が持てない状況です。

「盗んだのではなく、一時的に借りただけであり、返すつもりだった」などという自分に都合のよい理由をこじつけることがこれにあたります。

.不正を行う人の特徴
では、どのようなタイプの人が不正を行うのでしょうか?

不正研究の第一人者である米ブリガムヤング大学のスティーブ・アルブレヒト教授たちの研究によれば、不正の実行者には、次の9つの特徴が上位に挙がると言います。

(1)自分の資力を超えた(分不相応な)生活をしている
(2)私利私欲を抑えきれない
(3)個人的に多額の債務を負っている
(4)顧客と密接なつながりを持っている
(5)給料が自分の責任に見合っていないと感じている
(6)自分はやり手である、仕事ができるという態度をとる
(7)組織体制を出し抜こうという強い意欲を持っている
(8)過度のギャンブル癖を持つ
(9)家族または同僚からの過度なプレッシャーを感じている

このような特徴を持つ人が、不正の心理的きっかけとなる“動機”に結びつきやすいようです。

3.どのように防止するか?
では、どのようにしたら、不正を防止できるのでしょうか?

先ほどの不正のトライアングルにある、(1)動機・プレッシャー、(2)機会、(3)姿勢・正当化の3つの不正リスク要因に対処することが重要なのですが、(1)動機は誰もが持っているものです。

そして、(3)姿勢・正当化もその人の価値観などに依拠することが多いため、完全になくすことは難しいでしょう。でも、(2)機会については、減らすことができます。

不正が起きてしまうのは、小さな出来心から。後で何とかカバーすると思って、取り返しがつかないところまで大きくなってしまうのが不正です。

このような、出来心が起こるというのも、そもそもそういった環境や、機会があったからとも言えます。だからこそ、不正のできない環境づくり、不正ができる機会をなくすことを何より先に考えるべきだと思います。

このような(2)機会を減らすためには、社内に内部統制を構築することが有効です。内部統制の観点からは、権限を少数または一人に集約しないことが重要です。

できるだけ、モノを動かす人、お金を管理する人、記録をする人を分けることが理想です。

もし、権限が少数または一人に集中してしまう場合でも、一人の判断・一人の作業においてモノやお金が動かないよう、何人かで分業するなどけん制が効くような仕組みを構築することが重要です。

例えば、モノを仕入れて、仕入代金を払う場合には、モノを受け取る人、お金を払う人、帳簿に記録をつける人は分ける、また、モノが動くたびに伝票の記録を行い、モノと伝票を1対1で対応させるなどのルールを作ることが有効です。

このような、不正の機会を減らすための仕組みづくりは、経営者の責任にあると言えます。

そして、経営者は、日ごろから、『不正は許さない』というメッセージを社内で発信し、そのような企業文化を作る必要があります。

4.最後に
不正の専門家の方にお話をうかがったところ、「不正を考えるにあたって、人間の本性、本質を『悪』としてとらえる性悪説、『善』としてとらえる性善説という視点があるが、性悪説、性善説のどちらでもなく、性弱説で考える必要がある」と言います。

つまり、「人は基本的には、悪いこと積極的にしようと考えているものではないが非常に弱い存在である。機会があると、悪いことをしてしまう存在だ。」ということです。

どんな人でも、不正を犯してしまう因子は持っており、魔が差してしまえば不正を犯してしまう。

だからこそ、社員が困っている時に「ちょっと困っています」と相談できる環境があれば不正を防ぐことも可能だと思います。

つまりは、不正が起きるのは、経営者を含めて、周囲の人に対して思いやるような相互関係を築けていないからとも考えられます。

不正を起こさせない仕組みづくりこそは、経営者の愛情であり、信念なのではないでしょうか。

こちらのフルバージョンは、ヤフーニュースの

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180423-00010001-ffield-bus_all

に掲載されています。